退職をする際、どのようなあいさつをすれば良いか迷う方は多いでしょう。「立つ鳥跡を濁さず」というように、退職時には皆に快く送り出してもらい、自分自身にとっても、良い経験だったと振り返れる時間にしたいものです。
しかし、退職のあいさつは、単に「気持ちを込めれば良い」というわけではありません。やはり、マナーを踏まえたうえで適切なあいさつをすることが重要です。
この記事では、退職のあいさつで好印象を残すためのマナーを、スピーチとメールそれぞれの形式ごとに詳しく解説します。
退職のあいさつにおけるNG事項に加え、あいさつ文の基本構成や例文も掲載していますので、退職のあいさつに迷われている方はぜひ参考にしてください。
退職のあいさつの重要性
「退職時のあいさつ」と聞くと、どのような感情が湧き上がってくるでしょうか?
「もう二度と会わない人に、良い顔をする意味なんてない」
「面倒なあいさつはスキップして、さっさと新しい人生を始めたい」
もしかしたら、このように考える方もいらっしゃるかもしれません。長きにわたる企業生活での疲れ、または新しい日々への期待感が、そうした割り切った考えを生むこともあるでしょう。
今までに築いた人間関係はかけがえのない財産である
しかし、「面倒」「気が重い」といった安直な感情で過去との繋がりを断ち切ることが最善の選択なのでしょうか?やはり、これまでの人間関係を「不要」と切り捨てるのは、あまりにもったいないといわざるを得ません。
なぜなら、今まで企業生活で築き上げてきた人と人とのつながり、そのうえで得られた信頼関係こそ、これから始まる新しいステージで、想像以上の価値を生み出す「隠れた財産」となる可能性があるからです。
例えば、会社を辞めてフリーランスになる。起業という新たな道を切り拓く場合、最初の顧客となる、または困難な時に知恵を貸してくれる可能性も充分にあるでしょう。これらの可能性を自ら閉ざしてしまわないように、退職時こそきちんとあいさつすることを心がけてください。
退職時のあいさつは重要なコミュニケーションの機会
退職時のあいさつは、単なる形式ではありません。それは、これまでの自分自身を支えてくれた人々への感謝を伝える、最後の、そして最も重要なコミュニケーションの機会なのです。
たとえ心の中で様々な思いがあったとしても、誠意ある言葉と態度で別れを告げることは、今までプロフェッショナルとして働いてきた評価を確固たるものにします。
「立つ鳥跡を濁さず」という言葉があるように、美しい終わり方は、美しい始まりへと繋がります。好印象を残して退職することは、過去への敬意を示すだけでなく、実は未来の自分自身への贈り物でもあるのです。
スピーチで退職あいさつする場合
退職のあいさつといえば、多くの場合スピーチの形で行われます。特に、朝礼や退勤時のミーティングなど、皆が集まる場で行われることが多いでしょう。
ここでは、退職あいさつのスピーチについて、以下の4つの項目から解説していきます。
- スピーチのマナー
- スピーチの基本構成
- 状況別の例文集
- スピーチのNG事項
①スピーチのマナー
退職あいさつのスピーチは、これまで共に過ごした職場の方々へ感謝の気持ちを伝え、新たな門出を迎える大切な機会です。明るく前向きな姿勢で臨み、退職日・退職理由を明確かつ簡潔に伝えること、そして何より感謝の思いを真摯に表現することが基本のマナーです。
スピーチ時には、自分自身を良く見せようとしすぎず、等身大の気持ちで誠実に語ることが大切です。話す際は焦らず、ゆっくりと落ち着いたトーンを心がけましょう。会場全体に視線を配り、聞き手一人ひとりの目を見ながら語りかけるようにすると、感謝の気持ちがより深く伝わります。
退職理由について触れる場合も、可能な限り前向きな表現を選ぶのがマナーです。どのような状況であっても「お世話になりました」という一言を忘れずに添え、相手に敬意をもってあいさつすることが、社会人としてのマナーにつながります。
②スピーチの基本構成
退職あいさつは、いくつかの要素をバランス良く盛り込むことで、より心に響くものとなります。以下は、退職あいさつで基本となるスピーチの構成です。
(例:本日をもちまして退職することになりました営業部の田中一郎です。)
2. エピソードを添えた具体的な感謝の言葉
(例:特に、〇〇プロジェクトでは多くのことを学ばせていただきました。)
3. 学んだこと・成長したこと
(例:この3年間で培った○○の経験は、私の人生の大切な財産になります。)
4. 今後の展望
(例:新しい環境でも、○○社で学んだことを活かして頑張ります。)
5. 締めくくりの言葉
(例:皆様のさらなるご活躍をお祈りしております。本当にありがとうございました。)
③状況別の例文集
退職あいさつのスピーチは、伝える相手や状況に応じて変化させることも重要です。以下では、3つのパターンの例文を挙げてみます。
転職による退職を上司に伝える場合
佐藤部長、〇年間、大変お世話になりました。特に〇〇の件では、私の至らぬ点を辛抱強くご指導いただき、深く感謝しております。佐藤部長から教えていただいた〇〇という考え方は、今後の私のキャリアにおいても重要な指針となります。ご多忙の折とは存じますが、どうぞお体にお気を付けてお過ごしください。機会がありましたら、近況報告も兼ねてご挨拶にお伺いさせていただきます。
独立・起業による退職を同僚に伝える場合
山田さん、〇年間一緒に働くことができて、本当に楽しかったです。特にあの〇〇プロジェクトを乗り越えた経験は、今となっては良い思い出です。あの時の頑張りがあったからこそ、新しいことに挑戦しようという気持ちが湧いてきました。これからは立場は変わりますが、ぜひ連絡を取り合い、お互いの活動を応援できたら嬉しいです。落ち着いたら、ぜひ私の新しい事務所にも遊びに来てください。本当にありがとう!
家庭の事情による退職を全体あいさつで伝える場合
皆様、〇年間大変お世話になりました、営業部の田中一郎です。家庭の事情により退職することになりましたが、この会社で皆様と築き上げた温かい人間関係は、私の人生にとって何よりも大切な宝物です。特に、入社したばかりの頃、親身になって指導してくださった営業部の皆様には、感謝の言葉しかありません。今後も皆様とのご縁を大切に、またいつかどこかでお会いできることを楽しみにしています。どうぞお体に気をつけてお過ごしください。短い間でしたが、本当にありがとうございました。
④スピーチのNG事項
退職のあいさつを、スピーチなど言葉で直接伝える際には、以下はできる限り避けましょう。
不満や批判、自慢
あいさつで、会社や同僚への不満や批判を口にするのは絶対にNGです。どんな事情があっても、最後は円満に去るという姿勢を忘れないでください。また、次の職場の待遇や条件を自慢げに話すことも控えましょう。これは残る人への配慮に欠ける行為となります。
儀礼的なあいさつ
あいさつは、表面的で儀礼的な感謝の言葉だけ伝えるのも避けたいところです。「お世話になりました」だけでなく、具体的なエピソードを交えることで、真心が伝わります。逆に、くどいスピーチも相手の負担になるので、2〜3分程度を目安に伝えることを心がけましょう。
自己都合のあいさつ
相手の状況に合わせるあいさつをする相手の時間や状況への配慮を忘れないでください。忙しそうな時を避け、相手が話を聞ける状態であることを確認してからあいさつを始めることも、退職時のマナーとして重要です。
メールで退職あいさつする場合
退職時に直接会えない人や、多くの人に一度に伝えたいときは、メールであいさつするのも良いでしょう。ただし、簡易なメールだからこそマナーには特に気を配り、丁寧で誠実な印象を与える文面を心がけて作成しましょう。
- メールのマナー
- メールの基本構成
- 状況別の例文集
- メールのNG事項
①メールのマナー
退職のあいさつメールを送る際には、まず、件名を見ただけで誰からのメールか明確に分かるようにしましょう。本文は、感謝の気持ちを中心とした前向きな内容にすること、そして長文にならないよう大切な要点を短く、しかし丁寧に伝えることを心がけてください。
社内向けに複数の方へ一斉送信する場合は、宛先を「Bcc」とし、「To」には自分のメールアドレスを入力しましょう。これは、受信者の方々のメールアドレスが互いに見えないようにするためのマナーです。
退職理由については、「一身上の都合により」といった定型的な表現で十分に意図は伝わります。ただし、結婚や出産など、お祝い事に関連する理由であれば、簡単に触れても良いでしょう。
送信のタイミングは、社内の方々へは最終出社日、社外の方々へは退職日の2週間前を目安に送るのが適切とされています。これらの点に留意して、円満な退職へと繋がる丁寧なメールを作成しましょう。
②メールの基本構成
続いて、退職のあいさつメールの基本構成です。基本的にはスピーチと同様の流れとなりますが、文面であるため、より丁寧な表現を心がけましょう。
(例:お世話になっております。営業部の田中一郎です。私ごとではございますが、本日をもちまして退職することとなりました。
2. エピソードを添えた具体的な感謝の言葉
(例:在職中はご指導ご鞭撻いただき、誠にありがとうございました。特に、〇〇プロジェクトでは多くのことを学ばせていただきました。)
3. 学んだこと・成長したこと
(例:この3年間で培った○○の経験は、私の人生の大切な財産になります。ここで得た知識や姿勢を、今後も大切にしていきたいと思います。)
4. 今後の展望
(例:新しい環境でも、○○社で学んだことを活かして、一層努力してまいります。これからも前向きにチャレンジを続けていく所存です。)
5. 締めくくりの言葉
(例:皆様のさらなるご活躍とご健勝を心よりお祈り申し上げます。これまで本当にありがとうございました。)
6. 後任者のご案内(社外向けの場合など)
(例:今後のお問い合わせにつきましては、後任の山崎浩介が担当させていただきます。ご不明な点がございましたら、下記までご連絡ください。)
【後任者の氏名・連絡先・メールアドレスなど】
7. 今後の連絡先(必要に応じて)
(例:差し支えなければ、今後もご連絡いただけますと幸いです。)
【個人のメールアドレス・携帯番号など】
③状況別の例文集
以下に、状況に合わせた退職あいさつメールの例文を3つご紹介します。
1. 社内向け一斉メール(最終出社日に送信)
件名:退職のご挨拶(営業部 田中一郎)
皆様
お世話になっております。営業部の田中一郎です。
私事で大変恐縮ではございますが、この度一身上の都合により、3月31日をもちまして退職することとなり、本日が最終出社日となりました。
入社以来5年間、多くの方々に温かく支えられ、様々な貴重な経験をさせていただきました。特に昨年のZ社プロジェクトでは、皆様の温かいご協力のおかげで、無事に契約を成立させることができ、私にとって大きな自信となりました。
至らぬ点も多々あったかと存じますが、皆様の寛大なご理解に心より感謝申し上げます。この会社で培った経験と、皆様との温かい絆は、今後の私の人生においても大切な財産となります。
なお、今後の連絡先は下記となります。
メール:xxxxx@xxx.co.jp
電話:090-XXXX-XXXX末筆ながら、皆様のご健勝と、ますますのご活躍を心よりお祈り申し上げます。
今まで本当にありがとうございました。
株式会社○○
営業部
田中一郎
2. 上司へのお礼メール(個別送信)
件名:退職のご挨拶とお礼(田中一郎)
佐藤部長
お疲れ様です。営業部の田中一郎です。
本日をもちまして退職となりますが、3年間にわたり、公私にわたり様々なご指導を賜り、心より感謝申し上げます。
特に、営業としての基本的な姿勢から、お客様との交渉術に至るまで、佐藤部長からご指導いただいた「お客様の立場で考える」という視点は、私の今後のキャリアにおける重要な指針となります。困難な局面でも冷静かつ的確に対応される部長の姿に、何度も助けられました。
未熟な私に対し、根気強くご指導いただいたこと、改めて深く御礼申し上げます。佐藤部長から学んだ多くのことを活かし、新たな環境でも精一杯成長していきたいと存じます。
もし機会がございましたら、また温かいアドバイスをいただければ幸いです。
メール:xxxxx@xxx.co.jp
末筆ながら、佐藤部長のご健勝と、ますますのご活躍を心よりお祈り申し上げます。
本当にありがとうございました。
田中一郎
3. 社外の取引先へのメール(退職2週間前に送信)
件名:退職のご挨拶(株式会社○○ 田中一郎)
株式会社△△
営業部 後藤様いつも大変お世話になっております。株式会社○○の田中一郎でございます。
私事で誠に恐縮ではございますが、この度一身上の都合により、3月31日をもちまして株式会社○○を退職することとなりました。最終出社日は3月25日を予定しております。
後藤様には、3年間にわたり格別のご厚情を賜り、特に昨年の商品開発プロジェクトでは多大なるご支援をいただき、心より深く感謝申し上げます。
後任は、同部署の山崎浩介が担当させていただきます。既に業務の引き継ぎを進めており、今後も変わらぬご協力体制を整えております。つきましては、3月20日に山崎とともにご挨拶にお伺いしたく存じますので、ご都合の良い時間帯をご連絡いただけますでしょうか。
残り短い期間ではございますが、引き続き誠心誠意対応させていただきますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
末筆ながら、貴社の益々のご発展と、佐藤様のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
株式会社○○
営業部
田中一郎
メール:xxxxx@xxx.co.jp
電話:090-XXXX-XXXX
④メールのNG事項
退職のあいさつメールを作成する場合、不満や自慢を避けるのはもちろんですが、さらに以下の点も記載しないことが大切です。
なお、「全員に同じ文章を送るのは失礼ではないか」と心配する方もいますが、退職のあいさつメールを一斉送信することは、決して失礼ではありません。
勤務時間外の送信
退職のあいさつメールを送るなら、タイミングも大切です。例えば、休日にいきなり送る、または皆が寝ているような深夜・早朝に送るのは避けたいもの。社内の方へは最終出社日に、社外の方へは退職の2週間くらい前を目安に、相手の都合を考えて送りましょう。
長すぎるメール
感謝の気持ちを伝えたいのはもちろんですが、長すぎる文章は読むのが大変です。必ず、あいさつ内容を整理して、短くまとめてください。メールを読む方の時間を必要以上に奪わない配慮を心がけておきましょう。
基本的なミス
メールに誤字脱字、または宛名間違いがあると、せっかくのあいさつも残念な印象になってしまいます。送信前には文面を見直して、間違いがないか確認しましょう。
より好印象を残す退職のあいさつは?
退職のあいさつは、基本的なマナーを守って、気持ちよく会社を去ることが重要です。しかし、より良い印象を残したいという方もいるでしょう。
ここでは、そういった方に向けて、より好印象を与える退職の挨拶についてご紹介します。
- リラックスして臨む
- 上司には朝夕の2回あいさつする
- ユーモアを交える
①リラックスして臨む
より好印象を残す退職のあいさつは、やはりリラックスして臨むということです。退職のあいさつといえば、やはり緊張してしまうもの。加えて、「なんとなく申し訳ない」という気持ちが先に立ち、なかなかリラックスできない状況に迫られるでしょう。
しかし、そのような時だからこそ、リラックスして臨むことで、聞き手の心もほぐれ、スピーチ内容がより明確に伝わります。マナーを守りつつも、普段の状況に近い状態で話すことで、相手への自分の人間性や思いがより深く伝わります。
②上司には朝夕の2回あいさつする
より好印象を残す退職のあいさつとしては、上司に対しては朝夕2回行うということもポイントです。退職日の当日の朝、いつものようにあいさつする際に退職の旨を適切に伝え、また最後に職場を離れるという退職時に再度きちんと深くあいさつしましょう。
2回あいさつすることにより、「退職」という特別な日を重んじる想い、または区切りや感謝の気持ちがより深く伝わるでしょう。これは、上司だけではなく、自分の思いをしっかり伝えたい先輩や同僚も同様です。
③ユーモアを交える
より好印象を残す退職のあいさつとしては、ユーモアを交えるというのもおすすめです。ユーモアを交えると少しハードルが高く感じるかもしれませんが、場を和ませ、笑顔で送り出してもらえるという効果が得られます。
具体的な内容は以下の表にまとめたので、興味がある方はぜひ目を通して見てください。
方向性 | 例文の一部 | 効果 | 注意点 |
自虐系 | 私の席、やっと片付きますね! | 親しみやすく場が和む | 度が過ぎると暗くなる |
職場ネタ | 〇〇が聞けないのは少し寂しいです(笑) | 共感・思い出の共有 | 内輪ネタは伝わりにくい |
未来のジョーク | 通勤ラッシュと無縁の生活を送ります! | 前向きで明るい印象 | ふざけすぎに注意 |
過去の失敗談 | 初プレゼンで〇〇を間違えたのも良い思い出 | 人間味・親近感が湧く | 特定の人物の揶揄はNG |
ただし、自信がない場合は、無理にユーモアを取り入れる必要はありません。聞き手が共感性羞恥を覚えたり、場が気まずくなったりして、良い印象を与えるどころか、逆効果になることもあります。
退職あいさつ当日にやること
いよいよ迎える退職日。お世話になった方々への感謝の気持ちを伝え、気持ちよく新たなスタートを切るために、当日はいくつかのやることがあります。
慌ただしくならないよう、以下のToDoリストを参考に、当日をスムーズに過ごしましょう。
- 業務の最終確認と引き継ぎ、備品返却
- 同僚・上司・取引先へ感謝の挨拶
- ロッカーやデスクの整理と私物持ち帰り
- 必要書類の受け取りと返却物の確認
- 気持ちを込めたお菓子配り
もし、退職後の転職先がまだ決まっていない方で、CAD関連のスキルをお持ちでしたら、CAD業界に特化した転職支援サービス「JobTech for CAD」がおすすめです。専門性の高い転職エージェントが、豊富なCAD関連求人の中から一人ひとりに最適な企業を複数紹介してくれます。
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退職のあいさつについてまとめ
退職のあいさつは、マナーを守り、心を込めて伝えることが肝心です。人と人との繋がりは、どこでどのように結びつくかわかりません。「面倒だな」と感じて儀礼的なあいさつで済ませてしまうと、後まで心に引っかかり残念な思い出になってしまいかねません。
気が進まないと感じるなら、逆にしっかりとマナーを守り、社会人として相応しい退職のあいさつをしてみてください。きっと、あいさつを終えた後の気持ちは晴れやかになり、今後の大きな成長へと繋がるでしょう。
