給与をもらっている方にとって、毎年10月頃になると「年末調整」という言葉を耳にするようになります。毎年恒例の行事ですが、「そもそも、何のためにこの書類を書いているの?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
また、今年転職や退職をした方は、「自分の場合はどうなる?」と対応に迷うかもしれません。本記事では、そんな疑問を解決するため、年末調整の仕組みをわかりやすく解説します。
「年末調整はいつまで?」「いくら戻ってくる?」「しなかったら?」など、よくある疑問点もお答えしますので、ぜひこの機会に年末調整についてしっかり理解しましょう。
年末調整とは

年末調整とは、会社などの給与の支払者が従業員に代わって、1年間の所得税の過不足を精算する手続きです。この制度は、給与所得者が所得税に関する手続きを簡略化するために設けられています。
日本の所得税は本来自分で申告
日本の所得税の納付は、納税者が自ら所得を計算して申告する「申告納税制度」が原則です。毎年2月から3月にかけて行われる確定申告がこれにあたります。
しかし、給与所得者の場合は、会社が毎月の給与から所得税を天引きして国に納める「源泉徴収」という方法が採用されています。この制度により、多くの給与所得者の方は自分で確定申告をする必要がなくなり、所得税の精算を完了できるのです。
年末に年間所得税を調整
しかし、毎月の給与から天引きされる源泉徴収された税金の合計額は、1年間に最終的に納めるべき税額(年税額)と必ずしも一致しません。
そこで、会社は1年間の最後の給与を支払う際(通常12月)に、以下の2つの金額を比較し、差額を調整します。この精算手続きを年末調整といいます。
- 毎月天引きした所得税の合計額
- 1年間の総額から計算した最終的な所得税額
つまり、年末調整で税金が還付されても、決して「得をした」わけではなく、払いすぎていた分が手元に戻ってきただけなのです。
所得税の還付・追徴はそれぞれ異なる
「では、逆に支払う人もいるのでは?」と思った方もいるでしょう。もちろん、年末調整は「還付」と「徴収」どちらも行います。つまり、戻ってくるだけではなく、追加で支払うケースもあるのです。
戻ってくる場合
給与から天引きした税金の合計が、実際に納めるべき税額より多かった場合、会社はその差額(過納額)を従業員に還付します。ただし、会社が解散・廃業している場合などは、会社が「年末調整過納額還付請求書」を税務署に提出し、税務署から還付を受けます。
追加で払う場合
一方、年税額のほうが天引き額より多かった場合は、不足分を追加で支払わなければいけません。会社は、その不足額を給与または賞与から差し引きます。
もし、1回で全額を徴収できない場合は、翌月以降の給与から順次徴収されます。また、不足分を一度に差し引くと手取りが大きく減ってしまう場合には、税務署の承認を受けて翌年1月・2月に分けて支払うことも可能です。
年末調整は通常12月の給与で清算
年末調整は、会社が本年最後の給与を支払う際に行うのが原則です(所得税法190条)。そのため、通常は12月の給与で精算が行われますが、給与計算の締めの関係で、精算が翌年1月の給与に繰り越される会社もあります。
この年末調整で確定した所得額は、その年の源泉徴収票の「源泉徴収税額」欄で確認できます。
年末調整をする理由
続いて、年末調整をする理由について解説しましょう。
毎月の給与計算は概算である
毎月の給与から天引きする税金は、「源泉徴収税額表」に基づいて計算されます。この税額表は、1年間の給与額や各種控除額が変動しないことを前提としています。つまり、毎月私たちが払っている所得税は概算額なのです。
そのため、年の途中で昇給や降給によって給与額が変わる、または、育休などで勤務しない期間があると、毎月の天引き額と年税額との間にズレが生じてしまいます。このズレを解消するために、年末に正確な額へと調整が必要となるのです。
扶養家族の状況は年末に確定する
税金で控除の対象となる扶養親族の該当状況は、年末(12月31日時点)の現況で最終的に判断されます。
例えば、年の途中で結婚・離婚、または子どもが就職して扶養を外れるなどの理由で扶養家族の状況が変わった場合、実はその時点では毎月の源泉徴収額はすぐには変わりません。しかし、そのままでは正しい税額になりませんから、年末にその変更をまとめて正確に計算し直し、最終的な税額の差額を調整するのです。
ボーナスの金額が変動する
ボーナス(賞与)から源泉徴収される税率は、一般的に前月の給与額を基準に決められています。しかし、賞与の金額が想定通り支払われないこともあります。例えば、業績不振で賞与の額が減った、逆に業績好調で予想以上の額が支給されたなどです。
このように、毎月の給与とは別に支払われる賞与の支給額の変動によっても、年税額とのズレが生じます。このズレを解消し、正確な税額にするために年末調整で差額を調整するのです。
控除は年間の支払額確定後にまとめて行う
生命保険料控除、地震保険料控除、住宅ローン控除など、個人の年間支払額に応じて控除されるものは、毎月の給与計算の段階では反映されません。
これは、毎月の時点では年間の保険料やローンの支払総額が確定していないためです。そのため、1年間の支払いが確定した後、年末調整のタイミングでこれらの控除をまとめて行い、最終的な年税額に正確に反映させます。
年末調整はいつまで?提出期限は?

年末調整は、10月から始まり翌年の1月まで続く一連の手続きです。しかし、この手続きは会社側が行うもので、給与取得者にとって重要なのは「書類の提出期限」です。
給与取得者の書類提出時期は11月上旬
年末調整の書類を会社に提出する時期は、一般的には11月の上旬頃です。会社はこの後すぐに計算作業に入るため、期限に遅れると還付が遅れる可能性があるため注意しましょう。
年末調整で提出が必要な主な書類
| 書類の種類 | 概要/注意点 |
| 各種申告書 | 自身の家族状況や所得、支払った保険料などを会社に申告するための書類
|
| 各種控除証明書 |
|
年末調整が必要な人・不要な人
そもそも、年末調整はいったい誰が対象なのでしょうか?ここでは、年末調整が必要な人、不要な人について解説します。
年末調整が必要な人
年末調整は、原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社に提出している人(いわゆる甲欄適用者)が対象です。これは、正社員だけでなく、アルバイトやパートタイマーも含まれます。
通常、年の中途で退職した人は対象外ですが、以下のいずれかの条件に当てはまる場合は、退職時や移動時に会社で年末調整が行われます。
- 死亡により退職した人
- 海外支店への転勤などで日本国内の非居住者となった人
- 著しい心身の障害で退職し、年内に再就職の見込みがない人
- 12月に給与の支払いを受けた後に退職した人
- 年間の給与総額が123万円以下で退職したパートタイマー
なお、退職後、他の勤務先から給与を受け取る見込みがない場合に限ります。
年末調整が不要な人
以下の条件に当てはまる人は、会社では原則として年末調整を行いません。ただし、自分自身で確定申告を行う必要があります。
- 年間の給与総額が2,000万円を超える人
- 災害減免法の規定により、源泉徴収について猶予や還付を受けた人
確定申告は、最寄りの税務署や臨時会場で行う、もしくはスマホを使った「e-TAX」で自宅から手続きできます。「e-TAX」は、待ち時間や出向く手間を省け、さらに24時間いつでも申告できるなど、メリットの多い申告方法です。詳しい手順は以下の記事をご参照ください。
ふるさと納税は、所得税や住民税の控除を受けられる制度です。実質2,000円の負担で豪華な地域の特産品を受け取れ、さらに地方活性化にも貢献できます。ふるさと納税については以下の記事で詳しく解説しているので、興味がある方はぜひご一読ください。
年末調整をしないとどうなる?
年末調整をしない場合、多くの人は所得税を払いすぎたままの状態になります。
通常、毎月の源泉徴収では、生命保険料控除や扶養控除などが十分に反映されていないことが多いため、年末調整を行わないと、本来なら戻ってくるはずの税金(還付金)を受け取れず、払いすぎた分がそのまま残ってしまうのです。
確定申告すれば年末調整を受けられる
年末調整を受けられなかった人は、自分で確定申告(還付申告)を行うことで、払いすぎた税金を受け取ることができます。
申告は、退職した年の翌年1月1日から5年以内であればいつでも可能です。元の勤務先から源泉徴収票などの必要書類をもらい、早めに手続きを行いましょう。
なお、年末調整を受けられなかった人とは、年の途中で退職し、その年のうちに再就職しなかった人です。例えば、一身上の都合で退職し、転職先が決まらなかった人などが当てはまります。
ただし、年の途中で退職しても、その年のうちに再就職した場合は、新しい勤務先で前職分の給与を含めて年末調整を行います。再就職先で、元の会社で払いすぎた所得税も精算されるため、確定申告の必要性は現職の有無で判断すると良いでしょう。
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年末調整で戻ってくる金額

ところで、年末調整の計算方法はどのようなものなのでしょうか?ここでは、年末調整で還付される金額の計算方法をお伝えしましょう。
還付金が決まるまでの流れ
年末調整で受け取る還付金額は、以下の流れで決定します。
- 1月から12月までの給与・賞与の合計額を計算
- 給与収入から給与所得控除額(65万円~195万円)を差し引き、給与所得を算出
- 基礎控除、扶養控除、生命保険料控除などを差し引いて課税所得を計算
- 課税所得に「所得税率の速算表」の税率をかけて所得税額を算出
- 住宅ローン控除があれば、ここからさらに差し引く
- 最後に「復興特別所得税」(2.1%)を加算して年調年税額が確定
年調年税額と源泉徴収税額の合計を比較し、源泉徴収額のほうが多ければその差額が還付され、12月の給与と一緒に戻ってきます。以下は、所得税率の速算表なので、こちらに当てはめて計算してみてください。
| 課税所得額 | 税率 | 控除額 |
| 1,000円~1,949,000円まで | 5% | 0円 |
| 1,950,000円~3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
| 3,300,000円~6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
| 6,950,000円~8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
| 9,000,000円~17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
| 18,000,000円から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
参照:所得税の税率|国税庁
年末調整で損をする年収とは?
年末調整で「損をする」とは、年収が増えるのに合わせて控除額が減る、または、控除額の上限に達して、実質的な税負担率が上がることを指します。ここでは、配偶者がいる方、納税者個人の2パターンで年末調整で損をする年収を見てみましょう。
配偶者の年収で損をするライン
配偶者を扶養している納税者本人が受けられる控除は、配偶者の年収によって段階的に変化します。
| 配偶者の年収 | 控除の種類 | 納税者への影響 |
| 〜103万円まで | 配偶者控除(満額) | 納税者は最大の控除を受けられる |
| 103万円~ | 配偶者特別控除に移行 | 控除額が年収に応じて段階的に減少 |
| 201万円~ | 控除なし(控除額ゼロ) | 配偶者控除・特別控除が完全に消滅 |
このように、配偶者の年収が201万円を超えると、納税者本人が受けられる控除がゼロになるため、「最も損をするライン」といえます。
2025年時点では、配偶者の合計所得金額が48万円以下であることが配偶者控除の条件です。これは給与収入だけで見ると、年収103万円以下に相当します。これが「103万円の壁」といわれるゆえんです。
なお、令和7年分以降の年末調整では、配偶者控除の所得要件が「合計所得金額48万円以下」から「58万円以下」に変更されます。これにより、給与収入のみの場合の「壁」が103万円から113万円に引き上げられることになります。
参照:配偶者の所得がいくらまでなら配偶者控除が受けられるか|国税庁
納税者本人の年収で損をするライン
納税者本人の年収により損をするラインは、850万円です。この金額は、給与所得控除額の上限195万円に該当する年収額で、850万円を超えて増えた分の収入に対しては、控除額は一切増えません。
結果として、収入増加分のほぼ全額に税金がかかる形になるため、実質的な税負担率が上がり、税制面で「損をしている」と感じるラインとなります。
年末調整の書き方
年末調整で提出する書類は主に以下の3つで、それぞれ記入する対象期間が異なります。
給与所得者の扶養控除等申告書(マル扶)
これは、来年の源泉徴収税額を決定するために、扶養家族などの情報を会社に伝えるための書類です。
- 記入対象:来年の予定(令和8年分など)の扶養家族や障害者、ひとり親などの情報
- 書き方:来年1月1日時点での扶養親族の氏名、所得の見積もり額などを記入
この書類を提出しないと、来年の給与から引かれる所得税が高くなってしまう場合があるため、必ず提出しましょう。
基礎・配偶者・特定親族特別・所得金額調整控除申告書(基・配・特・所)
これは、今年の所得や配偶者、特定親族に関する控除を申告するための書類です。
- 記入対象: 今年の所得見込み額、配偶者の所得見込み額、特定親族の情報など
- 書き方: 年収見積もりから所得を算出→配偶者の所得を記入→各控除額を計算・記入
年の途中で家族の収入や状況に変化があった場合は、最新の情報で記入することが大切です。
給与所得者の保険料控除申告書(マル保)
これは、今年支払った保険料や年金掛金などの控除を申告するための書類です。
- 記入対象: 今年の生命保険料、地震保険料、iDeCoの支払額
- 書き方: 保険会社などから送付された控除証明書の金額を転記
控除証明書がないと記入内容を証明できないため、必ずこの書類に添付してください。
年末調整についてまとめ
年末調整とは、毎月の給料から概算で引かれていた所得税を、年末に正しい金額に計算し直す手続きのことです。サラリーマンやパートの方は、会社がこの手続きをしてくれます。
多くの場合、税金を払いすぎているため、申告することで還付金が戻ってきます。また、年の途中で会社を辞めてそのまま年末を迎えた方は、自分で確定申告をすれば、払いすぎた税金を取り戻せますので、必ず手続きをしましょう。