所得税の計算方法や税率、控除の仕組みは複雑で、多くの方が戸惑いや不安を感じているのではないでしょうか。毎年の税制改正や自身の収入状況の変化に伴い、税金額も変動するため、正確に理解することが重要です。
本記事では、所得税の基本から具体的な計算方法、適用される控除・税率について詳しく解説します。所得税に関する疑問や不安を解消し、安心して税務手続きを進めるために、ぜひ参考にしてください。
所得税とは?
まずは、所得税の基本について理解を深めましょう。ここでは、3つの基本知識を紹介します。
所得税の定義
所得税とは、個人が1年間に得た経済的利益、すなわち所得に対して課される税金です。この所得には、給与や事業収入、投資による利益などのさまざまな収入が含まれます。
所得税は、納税者の経済的能力に応じて負担を求める仕組みであり、所得の多寡に応じて税率が変動する累進課税制度が採用されています。これにより、所得の高い人ほど高い税率が適用され、所得の再分配を図る役割も担っています。
所得税の課税対象
所得税の課税対象となる所得は、所得税法により10種類に分類されています。具体的には、以下のとおりです。
所得の種類 | 具体例・説明 |
---|---|
利子所得 | 預貯金や公社債の利子など |
配当所得 | 株式の配当金、投資信託の収益分配金など |
不動産所得 | 土地や建物の貸付による収入など |
事業所得 | 個人事業主の事業活動による利益など |
給与所得 | 勤務先からの給料、賞与など |
退職所得 | 退職金、一時恩給など |
山林所得 | 山林の伐採または譲渡による所得など |
譲渡所得 | 資産の譲渡による所得 (土地、建物、株式等) |
一時所得 | 懸賞の賞金品、競馬の払戻金など |
雑所得 | 他のいずれの所得にも該当しない所得 (公的年金、副業収入など) |
これらの所得は、それぞれ性質や発生源が異なり、計算方法や課税方法も異なります。たとえば、給与所得は勤務先から受け取る給料や賞与が該当し、事業所得は個人事業主が事業活動から得る利益を指します。
一方で、宝くじの当選金や遺産相続など、一部の所得は非課税所得として税金が課されない場合もあります。
所得税の基本的な仕組み
所得税は、まず各種所得を合計して総所得金額を求め、そこから基礎控除や配偶者控除などの所得控除を差し引いて課税所得金額を算出します。次に、この課税所得金額に対して累進税率を適用し、算出された税額から税額控除を差し引くことで最終的な所得税額が決定されます。
累進税率とは、所得が増えるにつれて税率も高くなる仕組みで、これにより所得の多い人ほど高い税負担を負うことになります。また、所得控除や税額控除の適用により、納税者の家族構成や生活状況など個別の事情が考慮され、税負担の公平性が保たれています。
所得税の税率と速算表
引用:国税庁
以下では、所得税の税率と自分の税額が一目でわかる速算表を紹介します。
所得税の累進課税制度
累進課税制度とは、所得や財産などの課税対象額が増加するにつれて、適用される税率も高くなる課税方式です。
この制度では、納税者の経済的能力に応じた公平な税負担が実現し、所得格差の是正や社会的な公平性の確保を目的としています。なお、日本では、所得税だけでなく、相続税や贈与税などにも累進課税制度が採用されています。
税率と速算表
以下は、税率と税金額の速算表です。ぜひ参考にしてください。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
税率適用時の注意点
所得税の計算においては、課税所得金額に応じた適切な税率と控除額を適用することが重要です。特に、課税所得が税率の境界線付近にある場合、適用する税率や控除額が変わるため、正確な計算が求められます。
また、所得控除や税額控除の適用により、最終的な税額が大きく変動することもあります。さらに、税制は毎年見直される可能性があるため、最新の情報を確認し、適切な税率や控除額を適用することが重要です。
所得税の詳しい計算手順
ここでは、所得税の計算の具体的なステップを詳しく解説します。
- 総所得金額の計算
- 所得控除の適用
- 課税所得金額の算出
- 税率の適用と税額の計算
①総所得金額の計算
総所得金額とは、納税者が1年間(1月1日から12月31日まで)に得た全ての所得の合計額を指します。所得は、前述した通り所得税法により10種類に分類されています。
各所得の計算方法は異なり、たとえば、給与所得は給与収入から給与所得控除を差し引いた金額、事業所得は事業収入から必要経費を差し引いた金額となります。これら全ての所得金額を合計することで、総所得金額が算出されます。
②所得控除の適用
総所得金額が算出された後、次に行うのが所得控除の適用です。所得控除とは、納税者の個人的な事情や生活状況を考慮して、税負担を軽減するために総所得金額から差し引くことができる金額のことです。
これらの控除を適用することで、課税の対象となる所得金額を減らすことができます。なお、控除の各種類については、次の項目で紹介します。
③課税所得金額の算出
所得控除を適用した後、総所得金額から所得控除の合計額を差し引くことで、課税所得金額が算出されます。課税所得金額とは、実際に所得税が課される所得の金額を指します。
この金額が多いほど適用される税率も高くなり、納める税額も増加します。したがって、適切な所得控除を適用し、課税所得金額を正確に算出することが重要です。なお、課税所得金額がゼロまたはマイナスの場合、所得税は課されません。
④税率の適用と税額の計算
最後に、課税所得金額に対して所得税の税率を適用し、税額を計算します。日本の所得税は累進課税制度を採用しており、課税所得金額に応じて税率が段階的に上昇します。
具体的には、課税所得金額が195万円以下の場合は5%、195万円を超え330万円以下の場合は10%(控除額9万7,500円)、330万円を超え695万円以下の場合は20%(控除額42万7,500円)といった具合に、所得が増えるごとに税率が上がります。
最終的な税額は、課税所得金額に対応する税率を適用し、前述した速算表に記載の控除額を差し引くことで求められます。
所得税に係る所得控除一覧
所得税の計算において、所得控除は納税者の個人的事情や生活状況を考慮し、税負担を軽減する重要な役割を果たします。以下に、主な所得控除の種類とその概要を解説します。
控除の種類 | 説明 |
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基礎控除 |
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配偶者控除 |
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扶養控除 |
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医療費控除 |
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社会保険料控除 |
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生命保険料控除 |
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地震保険料控除 |
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寄附金控除 |
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その他の控除 |
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基礎控除
基礎控除は、すべての納税者に適用される所得控除であり、最低限の生活費を保障する目的で設けられています。年間の合計所得金額が2,400万円以下の場合、一律48万円が控除されます。
ただし、合計所得金額が2,400万円を超えると控除額は段階的に減少し、2,500万円を超えると基礎控除は適用されません。この控除により、所得税の負担が軽減され、納税者の生活を支援する役割を担っています。
配偶者控除
配偶者控除は、納税者に所得が一定以下の配偶者がいる場合に適用される控除です。具体的には、配偶者の年間合計所得金額が48万円以下(給与収入のみの場合、年収103万円以下)であり、納税者自身の合計所得金額が1,000万円以下であることが条件となります。控除額は、一般の控除対象配偶者の場合38万円、配偶者が70歳以上の老人控除対象配偶者の場合48万円です。この控除により、専業主婦(夫)やパートタイムで働く配偶者を持つ家庭の税負担が軽減されます。
扶養控除
扶養控除は、納税者が生計を一にする扶養親族を有する場合に適用される控除です。扶養親族とは、年間合計所得金額が48万円以下で、納税者と同一生計である親族(配偶者を除く)を指します。
控除額は、一般の扶養親族の場合38万円、特定扶養親族(19歳以上23歳未満)の場合63万円、老人扶養親族(70歳以上)の場合同居で58万円、別居で48万円となります。この控除により、子供の教育費や高齢の親の介護費用など、家族を扶養する負担を考慮した税軽減が図られます。
医療費控除
医療費控除は、納税者が自身や生計を一にする配偶者、扶養親族のために支払った医療費が一定額を超える場合に適用される控除です。
具体的には、年間の医療費総額から保険金などで補填される金額を差し引いた金額が10万円(または総所得金額等の5%のいずれか低い方)を超える場合、その超過部分が控除対象となります。控除額の上限は200万円です。
医療費には、診療費や薬代のほか、通院のための交通費なども含まれます。この控除により、高額な医療費を支払った際の税負担が軽減されます。
社会保険料控除
社会保険料控除は、納税者が支払った社会保険料の全額を所得から控除できる制度です。対象となる社会保険料には、健康保険料、厚生年金保険料、国民年金保険料、介護保険料、雇用保険料などが含まれます。
また、納税者が生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った社会保険料も控除の対象となります。この控除により、社会保険料の負担が直接的に所得税の軽減につながります。
生命保険料控除
生命保険料控除は、納税者が支払った生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料に応じて所得から一定額を控除できる制度です。契約の締結時期により新契約(平成24年1月1日以降)と旧契約(平成23年12月31日以前)に分かれ、それぞれ控除額の計算方法が異なります。
新契約の場合、各保険料区分ごとに最大4万円、合計で最大12万円の控除が可能です。この控除により、将来のリスクに備えるための保険料負担が税制面で支援されます。
地震保険料控除
地震保険料控除は、納税者が地震保険契約に基づき支払った保険料を対象とした控除です。年間に支払った地震保険料の全額が控除対象となり、その上限額は5万円です。
また、平成18年12月31日以前に締結した長期損害保険契約に基づく旧長期損害保険料も控除の対象となりますが、その場合の控除上限額は1.5万円です。この控除により、地震などの災害に備えるための保険料負担が軽減されます。
寄附金控除
寄附金控除は、国や地方公共団体、認定NPO法人などに対して寄附を行った場合に適用される控除です。控除対象となる寄附金の種類には、ふるさと納税や日本赤十字社への寄附、公益法人への寄附などが含まれます。
控除額は、寄附金の合計額から2,000円を差し引いた金額で、所得金額の40%が上限となります。また、ふるさと納税の場合は、税額控除として住民税の減額も適用されるため、実質的な負担額が軽減されます。
その他の控除
所得控除には、上記のほかにも特定の状況に応じて適用されるものがあります。たとえば、寡婦(夫)控除は、一定の条件を満たしたひとり親世帯に適用される控除で、控除額は27万円または30万円となります。
また、障害者控除は、納税者本人や扶養親族が障害者である場合に適用され、控除額は27万円、特別障害者の場合40万円、同居特別障害者の場合75万円となります。
勤労学生控除は、一定の条件を満たす学生に適用され、27万円の控除が受けられます。これらの控除を活用することで、納税者の負担をより適切に軽減することが可能です。
所得税の計算例
所得税の計算は、収入から各種控除を差し引き、課税所得を求めた上で税率を適用することで行われます。以下で、給与所得者と個人事業主の具体的なケースを見ていきましょう。
給与所得者の場合
給与所得者の所得税計算は、給与収入から給与所得控除や基礎控除などを差し引き、課税所得を求めて税率を適用します。以下に、年収500万円と800万円の場合の計算例を示します。
年収500万円のケース
年収500万円の給与所得者の場合、まず給与所得控除を計算します。給与所得控除は、収入金額に応じて異なりますが、年収500万円の場合、収入金額×20%+44万円となります。したがって、500万円×20%+44万円=144万円が給与所得控除額です。
次に、課税所得を求めます。課税所得は、給与収入から給与所得控除と基礎控除(48万円)を差し引いた金額です。つまり、500万円-144万円-48万円=308万円となります。
この課税所得308万円に対して、所得税の税率を適用します。課税所得が195万円を超え330万円以下の場合、税率は10%で、控除額は9万7,500円です。したがって、308万円×10%-9万7,500円=21万2,500円が所得税額となります。
年収800万円のケース
年収800万円の給与所得者の場合、給与所得控除は、収入金額×10%+110万円となります。したがって、800万円×10%+110万円=190万円が給与所得控除額です。
次に、課税所得を求めます。800万円-190万円-48万円=562万円となります。この課税所得562万円に対して、所得税の税率を適用します。課税所得が330万円を超え695万円以下の場合、税率は20%で、控除額は42万7,500円です。
したがって、562万円×20%-42万7,500円=69万2,500円が所得税額となります。
個人事業主の場合
個人事業主の所得税計算は、総収入から必要経費を差し引いて事業所得を求め、さらに各種所得控除を差し引いて課税所得を算出し、税率を適用します。以下に、年間所得300万円と600万円の場合の計算例を示します。
年間所得300万円のケース
年間所得が300万円の個人事業主の場合、まず事業所得を計算します。総収入から必要経費を差し引いた金額が事業所得となりますが、ここでは必要経費を考慮しない単純化した例とします。
次に、課税所得を求めます。事業所得から基礎控除(48万円)を差し引くと、300万円-48万円=252万円となります。この課税所得252万円に対して、所得税の税率を適用します。
課税所得が195万円を超え330万円以下の場合、税率は10%で、控除額は9万7,500円です。したがって、252万円×10%-9万7,500円=15万2,500円が所得税額となります。
年間所得600万円のケース
年間所得が600万円の個人事業主の場合、事業所得は600万円とします。次に、課税所得を求めます。600万円-48万円=552万円となります。この課税所得552万円に対して、所得税の税率を適用します。
課税所得が330万円を超え695万円以下の場合、税率は20%で、控除額は42万7,500円です。したがって、552万円×20%-42万7,500円=67万2,500円が所得税額となります。
所得税の申告と納付
所得税の適切な申告と納付は、納税者の重要な義務です。ここでは、申告方法と期限、納付方法と期限について解説します。
申告方法と期限
所得税の確定申告は、毎年2月16日から3月15日までの間に行われます。申告方法には、税務署への直接提出、郵送、またはe-Tax(電子申告)があります。e-Taxを利用することで、自宅からインターネットを通じて申告が可能です。期限内に申告を行わないと、延滞税や無申告加算税が課される可能性があるため、注意が必要です。
納付方法と期限
所得税の納付期限は、確定申告の提出期限と同じく3月15日です。納付方法には、金融機関の窓口での現金納付、クレジットカード納付、振替納税、インターネットバンキングを利用した電子納付などがあります。
振替納税を利用する場合は、事前に手続きが必要で、実際の引き落とし日は納付期限より後になることがあります。各納付方法には特徴があるため、自身の状況に合った方法を選択することが重要です。
よくある質問(FAQ)
所得税に関する疑問は多岐にわたります。以下に、特に多く寄せられる質問とその回答をまとめました。
所得税が課されない収入には、法律で定められた「非課税所得」が含まれます。具体的には、通勤手当(一定額まで)、社会保険給付金、損害保険の保険金、宝くじの当選金などが該当します。
また、給与所得者の場合、年収が103万円以下であれば、基礎控除48万円と給与所得控除55万円を差し引くことで課税所得がゼロとなり、所得税は発生しません。
副業で得た収入は、主に「雑所得」や「事業所得」として分類され、所得税の課税対象となります。副業による所得(収入から必要経費を差し引いた金額)が年間20万円を超える場合、確定申告が必要です。ただし、所得が20万円以下でも、住民税の申告が必要な場合があるため、注意が必要です。
年末調整は、主に給与所得者を対象に年間の所得税額を精算する手続きで、勤務先が代行します。一方、確定申告は、自営業者や副業収入がある人、医療費控除や寄附金控除を受ける人などが、自ら年間の所得と税額を税務署に申告する手続きです。
年末調整で控除しきれない項目や、副業収入がある場合は、確定申告が必要となります。
所得税の計算方法まとめ
所得税は、総所得金額から各種控除を差し引き、課税所得金額を算出した上で、累進税率を適用して税額を計算します。給与所得者の場合は、給与所得控除後の金額から基礎控除や扶養控除などを差し引き、課税所得を求めます。
個人事業主は、総収入から必要経費を差し引いて事業所得を計算し、同様に控除を適用して課税所得を算出します。課税所得に対しては、税率5%~45%の累進課税が適用され、速算表を用いて正確な税額を求めます。正しい計算を行い、確定申告と納付期限を守ることが重要です。
